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自分にとってblogは人生の覚書。Art、映画、音楽に関するTopicsを新旧おりまぜ日々更新中。毎日ココロに浮かんでは消える想いなどつぶやきます。たまに旅をします。(c) jigenlove All rights reserved.


by jigenlove
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失恋

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友(主人公)からの手紙にはその気持ちが露骨にかかれている。
ここに一つ最近に来た友の手紙がある。
その一部をよんで見よう。

『僕は淋しい。僕は仕事にかじりついている。
無理にも仕事にかじりついている。
そして自分の淋しさに打ち克とうと思っている。
しかし淋しい。自分は毎日うろつきまわっている。
ゆきたい処も、ゆく処もない。
郊外の田圃や、雑木林の中を歩いたり、小川のふちに腰かけてぼんやり水を見たりしている。
そしてややもすると泣きたくなる。
自分は本当のひとりぼっちだ。
君(主人公の親友)がいてくれたらとよく思う。
本当に失恋はすべきでないものと思う。
子を失う母よりもっとつらいように思う。
自然は何のために人間にこんな淋しさを与えるのだろう。
人間はなぜまたこの淋しさを耐えなければならないのだろう。
自分は鍛えられているのだと思おうと努力する。だがつらすぎる。
しかし自棄は起こしたくない。
そしてますます人生と仕事にしがみつく。
美しき彼女よ、自分を憐れめ、微笑みの日光をちょっとでもいいから当ててくれ。
僕の生長力は凍えそうだ。
君よ、僕を慰めてくれ。僕は淋しさに耐え兼ねている。
無理に勇気を起こそうとしている。
君よ、どうか僕に勇気を与えてくれ』
                      Ж
あなた(主人公の親友)からの御返事をお待ちしておりますが、まだ参りません。
私は心配になります。怒っていらっしゃるのですか、憐れと思って御返事を下さい。
私は巴里に行きとう御座います。一目あなたにお目にかかりたい。
そうすれば死んでもいいと思います。
武子さまはこのくれにおたちになります。羨ましく思います。
御返事を、御返事をお待ちしております。
                       Ж
「僕(主人公)は一人で耐える。
そしてその淋しさから何かを生む。見よ、僕も男だ。
参りきりにはならない。
君からもらったベートオヘェンのマスクは石にたたきつけた。
いつか山の上で君たち(親友と想い人)と握手する時があるかもしれない。
しかしそれまでは君よ、二人は別々の道を行こう。
君よ、僕のことは心配しないでくれ、傷ついても僕は僕だ。
いつかは更に力強く起き上がることだろう。
これが神から与えられた杯ならばともかく自分はそれをのみほさなければならない。」

野島はそれをかき上げると彼は初めて泣いた。泣いた、そして下の文句を泣きながら日記に書いた。
「自分は淋しさをやっとたえて来た。今後なお耐えなければならないのか、全く一人で。神よ助け給え」

武者小路実篤「友情」(1932年初版)
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by jigenlove | 2005-09-21 23:19 | 物語