なにかにつれおもいだす一節
2006年 01月 23日
幼児や子供は親に依存しているものだ。
自分一人では生活できないからしょうがない。
幼児や子供にとって親は世界全体に等しい。
親からひどいことをされる子供の脳からはアドレナリンか、それと似たような作用の物質が分泌される。それは生命の危機にさらされたときに分泌されるもので、闘争または逃亡のためにからだの働きを整える。猫に追いつめられたネズミからもアドレナリンは大量に出るんだよ。
心拍数は上がり、血管は膨張し、血糖値も上がる。戦う態勢と逃げる態勢が整うわけだが、子供は逃げることができない。だってどこにも行くところがない。親とは戦うこともできないし、親からは逃げることもできない。
もっと厄介なのは幼児や小さい子供の頃は親のことを嫌いになれないということだ。親からひどい目に遭った子供のからだの中ではアドレナリンが垂れ流しになっていて、やがて虐待が日常化してしまうと、慣れが起こって、アドレナリンはもう分泌されなくなる。垂れ流しのあとでアドレナリンが分泌されなくなると、人間の活動は異常に低下する。
反応が鈍くなり、血流が減り、無表情になる。
そういう過程で尻や太股の肉にも張りが失われていく。
そういう人間は基本的にコミュニケーションが不可能になってしまう。
他人と自分の間にあるのは不信感だけで、自分を好きになることがものすごくむずかしい。
・・・あの男はそういうことをわたしに言った。
『シャトー・ディケム』 村上龍
by jigenlove
| 2006-01-23 22:09
| 本