ある王国のおはなし
2006年 07月 14日
むかしむかしとてもちいさな王国がありました。
王様は女の人でした。
女王はとても気むずかし屋でした。
あるとき、家来の1人がこう言いました。
「女王様はとてもお綺麗でいらっしゃる」
それをきいた女王は内心とてもうれしかったのですが、返す言葉に困ってしまいました。
以前は笑って「そうじゃろう。わかっておる。」と笑いながら答えたものでした。
しかし女王は知っていました。女中の中に自分より華奢で女らしく、器量よしの娘がいること、異国の貴族に自分よりすらりと肢体の美しい者がいることを。それを思うと、こころない者がそんな女王をせせら笑っている気がしてしまうのでした。
『何か言葉は返したいが 礼を言えば本気にしていると思われる。
それなら喜ぶわらわが馬鹿らしい。
美しいと言われてうれしくない者はいまいが、これではあまりに仕様がない。』
女王は何回もこのことで悩んだ末に、こう思いました。
『・・・なにか企みがあるのやも知れぬ。』
それに素直に感情を表すことは王様の威厳にだって関わります。
『いっそ綺麗と褒める者はすべて何かの魂胆があるはず。
わらわはそれを見抜いてみせようぞ。』
それからというもの、外見を褒められてもかえって返す言葉に困るために、わずらわしくさえ思うようになりました。もう、「ありがとう」と言うことさえ気疲れするほどです。
周囲の者たちは以前と違う様子の女王に戸惑いました。
『王様はお疲れにちがいない。きっとすぐに元気になって以前の陽気な女王に戻られるさ。』人々はこう噂し合い、そしてややもするとそれにも慣れてしまいました。
当たり前のことですが、女王は王である前に女でした。
女として生まれること。
それは時として男性が思いも付かない十字架を背負っているものです。
若いこと、すらりとしていて曲線豊かであること、陽気でおおらかであること
守ってやりたくなるくらいはかなげであるか、自由奔放で明るく華やかであること
賢くつつしみ深いこと、親切で思慮深いこと
どんなにやり手でも男性を立て、控えめであること
家事や育児が得意であると同時に、自ら進んでよく気が付くこと
いつの時代も無言で求められる女性像はあまり変わらないように思うのでした。
偏屈な女王がその全てを叶えるのは到底無理な話でした。
そして世の多くの女性が多かれ少なかれそれをしていることに驚くと同時に、
信じられない気がしてしまうのでした。
『自分の人生を押し付けられた理想像になろうと努力するなんて・・・
そしてそれに気付かずしている人のなんと多いことか』
多くの公達はそのことを忘れがちでした。
女王はそのことにしばしば幻滅しました。
いっそ一生独り身で生きていくのなら、そのわずらわしさはなくなるのに。
そう思うすぐ後で時に襲ってくる淋しさもまた、誤魔化しようのない事実なのでした。
↑「世界で一番豊か」といわれるバヌアツ王国画像.
王様は女の人でした。
女王はとても気むずかし屋でした。
あるとき、家来の1人がこう言いました。
「女王様はとてもお綺麗でいらっしゃる」
それをきいた女王は内心とてもうれしかったのですが、返す言葉に困ってしまいました。
以前は笑って「そうじゃろう。わかっておる。」と笑いながら答えたものでした。
しかし女王は知っていました。女中の中に自分より華奢で女らしく、器量よしの娘がいること、異国の貴族に自分よりすらりと肢体の美しい者がいることを。それを思うと、こころない者がそんな女王をせせら笑っている気がしてしまうのでした。
『何か言葉は返したいが 礼を言えば本気にしていると思われる。
それなら喜ぶわらわが馬鹿らしい。
美しいと言われてうれしくない者はいまいが、これではあまりに仕様がない。』
女王は何回もこのことで悩んだ末に、こう思いました。
『・・・なにか企みがあるのやも知れぬ。』
それに素直に感情を表すことは王様の威厳にだって関わります。
『いっそ綺麗と褒める者はすべて何かの魂胆があるはず。
わらわはそれを見抜いてみせようぞ。』
それからというもの、外見を褒められてもかえって返す言葉に困るために、わずらわしくさえ思うようになりました。もう、「ありがとう」と言うことさえ気疲れするほどです。
周囲の者たちは以前と違う様子の女王に戸惑いました。
『王様はお疲れにちがいない。きっとすぐに元気になって以前の陽気な女王に戻られるさ。』人々はこう噂し合い、そしてややもするとそれにも慣れてしまいました。
当たり前のことですが、女王は王である前に女でした。
女として生まれること。
それは時として男性が思いも付かない十字架を背負っているものです。
若いこと、すらりとしていて曲線豊かであること、陽気でおおらかであること
守ってやりたくなるくらいはかなげであるか、自由奔放で明るく華やかであること
賢くつつしみ深いこと、親切で思慮深いこと
どんなにやり手でも男性を立て、控えめであること
家事や育児が得意であると同時に、自ら進んでよく気が付くこと
いつの時代も無言で求められる女性像はあまり変わらないように思うのでした。
偏屈な女王がその全てを叶えるのは到底無理な話でした。
そして世の多くの女性が多かれ少なかれそれをしていることに驚くと同時に、
信じられない気がしてしまうのでした。
『自分の人生を押し付けられた理想像になろうと努力するなんて・・・
そしてそれに気付かずしている人のなんと多いことか』
多くの公達はそのことを忘れがちでした。
女王はそのことにしばしば幻滅しました。
いっそ一生独り身で生きていくのなら、そのわずらわしさはなくなるのに。
そう思うすぐ後で時に襲ってくる淋しさもまた、誤魔化しようのない事実なのでした。
by jigenlove
| 2006-07-14 21:56
| 物語