フィリップ・ドレルムのエッセイ
2006年 02月 08日
ふだんこんなものはけっして頼まない。あまりに怪物じみていて、これでもかというほど甘いから、ほとんど気色悪い。ところが、だ。
このところ、あまりにさっぱりと洗練とされ、苦味の濃淡を味わうようなものばかりに手を出しすぎた。ついには、そこはかとない霞のごとき軽さのイル・フロッタントだとか、真夏の控えめな豪奢とでも言うべき赤いフルーツ四種の小鉢なぞ頼むしまつ。そんなわけで、一度だけメニュウのなかの、バナナ・スプリットのための行を飛ばさないことにした。
「で、あなたは?」
「バナナ・スプリット」
この単純きわまる幸福の山盛りを注文するのは、けっこうむずかしい。ギャルソンはあくまでも慇懃かつ客観的に注文を書き付けているが、こちらのほうはやっぱり多少ばつが悪い。この欲望の全面開放はどこか子どもぽっく、ダイエットのモラルなどどこ吹く風、美意識のかけらもない。
バナナ・スプリット、それは、どうだまいったかと言わんばかりの幼稚な食い意地であり、あられもない食欲だ。
『バナナ・スプリット』 ’ビールの最初の一口~とその他のささやかな楽しみ~’より
このところ、あまりにさっぱりと洗練とされ、苦味の濃淡を味わうようなものばかりに手を出しすぎた。ついには、そこはかとない霞のごとき軽さのイル・フロッタントだとか、真夏の控えめな豪奢とでも言うべき赤いフルーツ四種の小鉢なぞ頼むしまつ。そんなわけで、一度だけメニュウのなかの、バナナ・スプリットのための行を飛ばさないことにした。
「で、あなたは?」
「バナナ・スプリット」
この単純きわまる幸福の山盛りを注文するのは、けっこうむずかしい。ギャルソンはあくまでも慇懃かつ客観的に注文を書き付けているが、こちらのほうはやっぱり多少ばつが悪い。この欲望の全面開放はどこか子どもぽっく、ダイエットのモラルなどどこ吹く風、美意識のかけらもない。
バナナ・スプリット、それは、どうだまいったかと言わんばかりの幼稚な食い意地であり、あられもない食欲だ。
『バナナ・スプリット』 ’ビールの最初の一口~とその他のささやかな楽しみ~’より
by jigenlove
| 2006-02-08 23:21
| 味覚